【あらすじ】
親父がここを始めた時、集まってくる客は、空襲で焼け出された家族、職の無い帰還兵、腹を空かした戦災孤児だった。
店もボロボロのバラック建てだったが、客だってその日の宿も無いような連中ばっかりだったんだ。だから親父は、どん底の底って意味で、店の名前を「底ん処」ってつけたんだ。
高い食材は使えなくても、工夫次第で味は幾らでも良くしてみせる、それが、先代がこの店に残した大衆食堂の心意気だった。父親のそんな教えを胸に、がむしゃらに働いてきた隆三だったが、気がつけば隆三自身、人生の黄昏を迎えようとしていた。
近隣の工場の閉鎖と共に、かつての賑わいは消えてしまった街。そんな小さな街で、わずかな常連客だけを相手に細々と商売を続ける「底ん処」に訪れる、優しい奇跡の物語…。
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